チャーチルの夏、命輝くところ

 

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シロクマの涙

 


地球温暖化〜シロクマの母子!


(その一)
シロクマの母子だ!雌グマの体重は、200キロ〜300キロ。

「どこまでも続く永久凍土と日本列島が二つ、すっぽりとはまってしまうハドソン湾との間に立つと違う自分に気づく。それは途轍もなく小さな自分だ。まるで海の真ん中に置き去りにされたようだ。この大きさや自然の営みには、人間がなすすべもないことを悟る。ここは地球の一部である人間探しにはもってこいだ。ひょっとすると自分探しかも知れない。知ったかぶった知識と肌で感じることの違いなのだろう。


  *
"ブライアン!シロクマが来るぞ"

曇りがちながら、風もなく視界は良好だ。いつものことだが、シロクマは突如と現れる。一メートル先も見えない激しい地吹雪の中、ぽっかりと青空が現れるように。そしてちょっと目を離すと、真っ白な世界に吸い込まれるように消えてしまう。

ブライアンは双眼鏡をひったくるようにして、見ている。

"どこだ。まだ見えんぞ"

ドッグブリーダーである彼は、犬を世話するために、村の外でほとんどの時間をすごす。それも一年365日。どんな寒い日でも、いつも双眼鏡を使うのですぐに壊れる。

焦点を調整するダイアルが何かにぶつけたのか欠けている。トラックの中には、コーヒーの入った魔法瓶、犬の世話をするための頑丈な鎖、大きなペンチ、ドライバー、ハンマー、大小三種類の斧、クッキーの入った缶、ライフル銃2丁、弾丸25発入りの箱2個、40発の弾丸で重くなっているガンベルト(弾帯)が積み込まれている。どれひとつとして、都会では見かけることはない。出発するときは、整理としているが、凍った道や、砂利道を走るから、ひっくり返った道具箱になってしまう。

"ブライアン!11時の方向だ。お前の位置からだと11時半だな"と車の真正面を12時として方角を指差す。彼と最初に会ってから、時針で方向を言うようにしている。


"Hisa!11時半か?見えた!まて、二頭が見えるぞ!"と、トラックの窓ガラスの先を指差す。もう一頭はまるで影のように、ぴったりと連れ添っている。何キロも続く雪に覆われた永久凍土の東からハドソン湾沿って、時速5-6キロくらいでゆっくりと歩いてくる。
早足の場合、雄グマは時速8キロくらいで、車で併走した時に計ったことがある。それも何回も同じ経験をした。トラックで走っていた時、道路を350キロくらいの雄グマに出会い、ギャロップで逃げるシロクマを追う形になった。その車の速度計は50キロを越した。雌や子供は
雄より早く歩いたり、走ったり出来るから、一度くらい車で併走できたら分るのになぁ。

10月までは、寒冷地用ゴム長靴で過ごせる。今は、氷点下70℃でも耐えられる重くて大きなブーツを履く。車の中でもだ。もしシロクマに出会ったら、とても逃げられるものではない。時速8キロで走ったとしても、長くは続かない。シロクマと出会ったら恐怖だ。

温度はマイナス15℃以下だろう、既に小川や湖沼はツルツルに凍っている。氷も厚くなり、シロクマはどこでも歩いてゆける。だがハドソン湾は凍っていない。もう11月(2005年)も半ばと言うのに、シロクマはアザラシにありつけない。

ブライアンは、カメラマンやテレビなどの撮影隊が来ると、"このあたりでは母子の撮影は無理だから、観光バギーで撮影に行った方がいいよ。それなら母子の撮影チャンスがあるよ。その時は、バギーの運転手に親子を撮影したいと伝えておけよ"とアドバイスを怠らない。

母子連れはまれだ。この辺りには、雄グマが氷の張るのを待っているからだ。子連れ母クマにとって、雄グマは、飢えの次に大敵である。母子のクマ達を襲うとする雄グマを何度も見たことがある。

"あれは雄グマではないぞ。Hisa! あれはマムとカム(母子)だぞ"と言う。

見慣れているはずのシロクマも、ブライアンにとっては親子となると話は別だ。まるで初めてシロクマを見たようにはしゃぐ。

"Hisa! よく見ろよ。一頭は、もう一頭にピッタリと寄り添うように歩いてくる。母グマは、子グマに注意を払っているのが見えるだろう。あの歩き方は、母子だよ”

母グマは、後ろの子グマクマとの距離を離れると速度を落として待っている。母グマが立ち止まると、子グマも立ち止まる。

いつの間にか観察者に代わっている自分に驚く。二頭は、こちらにまっすぐ向かってくる。直ぐ近くには、600キロもあろうか雄グマがうろうろしている。

 

"Hisa!見ているか!母子は、雄グマを見つけたようだ。海岸へ向かって逃げている。雄グマより、走るのは早いな”と言うが、双眼鏡は見させてくれない。

             (つづく)

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(C)1997-2006,Hisa.