チャーチルの夏、命輝くところ

 

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シロクマの涙

腹をすかして、村に近づくシロクマの母子


地球温暖化〜何か変だぞ、ここ極北の村・チャーチルでも

チャーチルへの旅が始まって9年目、いままでに思いもよらない不思議にたくさんであった。まるで大都会で持っている尺度との違いに自分が驚き震えているのを感じる。春とはいえ、まだ湖沼が白く凍っている頃、雪が降り注ぐように舞い降りてくるガンの大群。卵を産んで、雛を孵し、子育てをし、そして南へ旅立つ姿は、ただただひたむきな姿そのものだ。それもあっという間の営みでもある。

かれらの豊かな生命に接していると、ここでは退屈と言う言葉は当てはまらない。

(その三) 銃がなければ遠足ができない〜何か変だぞ 

  

腹をすかして、村に近づくシロクマの親子

村では東西南北どちらへ歩いても、1分かそこらで村の外へ出てしまう。それなのに小学生は、スクールバスに乗っていく。寒い冬だけのことかと思ったら、夏でもバスに乗って行く。夏でもシロクマの危険があるからだ。ここは野性の国だ。

   *

2003年の8月、”パ〜ン、パ〜ン”という銃の発射音で目が覚める。子供達の登校する前に、シロクマが出没していないか見回っているのだ。今朝は、資源保護局の監督官がヘリコプター、周囲の監視をしている。

シロクマを発見となれば、誰でも電話で知らせてくる。村には、緊急電話番号が、四種類ある。病院、消防署、警察ここまでは日本の都市と同じだ。そしてシロクマ警報(Polar bear Alart)である。どれと比べても、シロクマ警報の電話が鳴るのが一番多い。ここは極北の村チャーチルだからだ。

チャーチルに滞在中、定宿のB&Bでも二度ほど窓からシロクマを発見した。宿の主は、直ぐに電話をかけていた。すぐに、警察と資源保護局のトラックが現れた。

村の近くでシロクマが発見されれば、ヘリコプターで威嚇して追い払うか、トラックで追跡をする。外敵に対する攻防戦さながらで、開拓時代の無法地帯みたいだ。

追い払うことが出来ないと、音だけのクラッカー弾を発射する。それでも無理だと、ゴム弾を撃ち込む。ゴム弾は当たれば大きなシロクマでも、逃げ出す。それでもシロクマが村へ戻ってくる場合には、麻酔銃で捕獲する。村の周りには、シロクマ捕獲用の大きなワナが仕掛けられている。ワナの中には、シロクマの大好物であるアザラシの肉がつるされている。

捕獲されたシロクマは、村の外にあるシロクマの檻に入れる。その後、ヘリコプターで100キロも北西へ、運ばれる。それでも戻ってくるシロクマがいるから始末が悪い。

2003年夏、9月までに、100頭ものシロクマが捕獲されてしまった。これは例年の2倍もの数字だと聞く。

シロクマのテリトリーに、人間が住み着いているから致し方がない。秋には、凍った海に向かって、何百頭も村の周辺を移動する。まさにここはシロクマのハイウェイだ。500キロも、600キロもの肉食獣にで会ったら、人間はとれもかなわない。

銃声の音は、朝だけでなく終始お構いなしだ。シロクマは昼夜関係なく活動しているからだ。今朝も、町のパン屋の裏にシロクマが出没したと言う。このパン屋は町のど真ん中にある。パンを焼く匂いにつられて現れたのだろう。”くわばら、くわばら"だ。

  

夏のチャーチルで写真撮影を楽しんでいた時、サマーキャンプに参加している子供達にであった。ここは村から徒歩10〜15分くらいのハドソン湾に面した場所だ。

ダブダブのモーグルスキーの選手のような子もいるが、ほとんどは、ジーンズのズボだ。これは子供達にとっては、オシャレのつもりのようだ。夏なので手袋こそしていないが、風除けのパーカーや毛糸の帽子を身に着けている。セーターだけでは寒いのだろう。

チャーチルには何度も来ているので、子供達の中には顔なじみもいる。”オーイ!Hisa!いつ来たんだ?元気かい? 学校にも遊びに来てよ!”と声をかけてくる。”君達に会うために着たんだよ!”と少し調子の良いことを言う。冬は、寒さを避けるためにフードで顔も隠しているので名前と顔が一致しない。何所へ行っても、私は子供と年寄りだけには人気があるようだ。

日本と違うのは、先生か父兄が銃持参で散歩をすることだ。これはシロクマに出会った時、子供達を守るためだ。遠くから見ると、無頼漢の集団のようだ。

ここの決まりでは、子供8人に銃を一丁もっている人が付き添わなければならない。子供が9人だったら2丁の銃が必要である。いつからなのか、この決まりはシッカリと守られている。

付き添いの父兄に聞くと、”夏、昔もシロクマがいなかったわけではないが、この頃のように、多くはなかったと思うよ。昔は、子供達は村の外まで平気で遊んでいたよ。この頃になって夏でもシロクマがうろうろしているようになったんだ。海岸は、風もあって涼しいからね。シロクマも泳いで涼をとっているのだろう”と環境の変化を不思議がる。

 

シロクマがいた!!

”シロクマがいた!!”と子供達から50メートルくらい先を指差す。一頭のシロクマが、ハドソン湾に面した大きな岩の上で昼寝をしている。銃を持つ大人達に、緊張が走る。海側だけでなく、あたり一面に気を配る。

シロクマを見つけた子供達は、おおはしゃぎだ。村の中ではいつもシロクマが見られるわけではないから。

 

昨日、ベルーガ鯨の写真を撮りに行った時、海岸で寝そべっていたり、泳いでいるシロクマを見た。暑さで、現れたらしい。

夏のシロクマは、チャーチルより南の森林地帯の土を掘った穴の中ですごす。永久凍土のなかは、温度が低いからだ。

冬から秋の間、アザラシ狩りをして十分に脂肪をつけているので、夏はのんびりすごす。冬眠でなく、夏眠だ。イチゴなど草を食べているようだ。省エネのため、動かないでいる。

それなのに何故、穴から出てきたのだろうか。それも一頭だけでなく。不思議だ。朝早くからシロクマを追い払うための銃声が聞こえる。夏、彼らのいる場所に何か変化が起きたのだろう。

その数も増えている。なにか変だ!(つづく)

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海で涼をとる母子


  

 
     
 

 

(C)1997-2006,Hisa.