チャーチルの月に聴き、地球を読む

 

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『極北の知恵・技〜生きるための叡智

T.チャーチルの月に聴く、そして地球を読む

(その六) 満ち潮だ!そして月が地球に近づく?

8月30日2004年は、同じ月内に二度目の満月(Full moon)が見られる珍しい日だった。西洋では、二度目の満月をブルームーンと読んでいる。その上、地球と月の距離が大きく接近する偶然が重なっている。そのため、月が地球を引っ張る力は、一年間でも最も大きい。干満差の大きさは、地球内部の地殻活動にも影響を与えた。大地震、火山の爆発などが発生してい。大きなテロも起こったことも関係なしとはいえない。

ブルームーンと言っても青い色をしているのではない。月が地球に近づいて、冷たく感じるほど明るくなるからである。

月齢の呼び方は、思いもかけないほど多い。ちなみに「十五夜」は、旧暦8月15日(西暦2004年は9月28日になる)の満月を言う。「名月」と特別扱いし、他の満月は単に「明月」としか呼ばない。さらに十五夜は、雲って見えない時には「無月」、雨だったら「雨月」と呼ぶ。

満月の別名を調べてみると「望月(もちづき)、望(ぼう)」、「三五月(もちづき)」と読ませているのは柿本人麻呂の歌である。

 満月はもとより、他の月の名前を幾つか拾って見ると、十六夜はいざよい、十七夜は立待ち月、十八夜は居待の月、十九夜を寝待の月と呼びます。さらに、旧暦の9月13日の月を十三夜。そして、満月を過ぎた十六夜以降の月は夜が明けても西空にまだ見えているので「有明の月」と言う。

まだまだ地球を読むのも、人の心を読むのにも、学ぶことはたくさんあるようだ。


"リーンリーン!!"と、宿の電話が鳴る。”おい!Hisa か”と低い声が響く。

”ブライアンか?"

”そうだ!今夜の晩飯はどういう予定だ。なければ、今から教会でチャーリティー・ディナーがあるからお前も来ないか?”と誘いの電話である。

”この教会では、アルコールはでないからその前に俺の家で、ビールでも飲んでから行こう”

この村で、パーティーに誘ってくれるようになったのは、最近のことだ。商売など下心がなければ、めったに人を呼ぶことはない。よそ者が家に呼ばれるようになったらここでは一人前だと思えばいい。

”ありがたい。勿論さ、行くよ。教会へはどんな格好をしてしていけばいいの?ネクタイもないけど”と訊ねるが、実際はたいした着替えも持って来ていない。

大笑いしながら”Hisa ! ここチャーチルだぜ。風邪を引かないような格好さえしてくればいい。10分後迎えに行くからな!”といつもより朗らかに声をかけてくる。

”えっ。ブライアン??迎えに来てくれるの? 俺、今日雪の中にトラックごと突っ込んだけど、知っている?"と自分の恥をさらす。

”何でも知っているよ。ここはチャーチルだぞ”と大きな声で笑う。ここでは隠し事は出来ない。ゴシップでも、猫が子供を産んだことも何でも筒抜けだ。夫婦喧嘩など知れようならたら、ナレーション付きで村中に広がる。フランス語でも日本語でも、一年間話題にされる。

そのためチャーチルに来てからは、誰にとっても愉快な話題だけをすることにしている。一番無難だからである。それに笑顔だ。人間は、誰でも笑顔が一番に似合う。

   *

まだ風は強い。トラックが猛烈な吹雪の中から急に現れる。”ブライアのトラックだ!”

家から出る時が大仕事である。出口の扉が飛ばされそうになる。車までほんの5メートルくらいしかないのに、歩くのも容易でない。その次は、車のドアーを開けるのが大変。風が待ち構えていて、ドアーを吹き飛ばそうとする。ガラス窓を少しだけ開ける。慎重でないと、命取りになりかけない。

髪形を整えたのに、あっという間に鳥の巣のようになった。おまけに、冷たさは、肌を切り裂くようだ。
  *

ビールを飲むためのブライアンの家まで車で5分、そこから教会へは5分もかからない。ここは極北の小さな村だ。すでに10台くらいの車が駐車しある。

”ブライアン!風を背にして駐車をしたらドアーを吹き飛ばされてしまうよ!"と駐車の仕方に異を唱える。風は強い。

”フンフン・・・Hisa!少しはここでの運転の仕方を覚えたな。いいぞ、いいぞ。注意して車から降りろ”と言いながらも風下に向かって駐車をする。

”Hisa!いいかい。昼間、海に湯気が出始めたのを覚えているな。あれは潮が大きく引いたときだったな。そして急速に天気が悪化し始めた"

今夜、8時には満潮になるから、もうすぐ風も少なくなり嵐も終わる。きっと満月が見えるだろう。東京に澄んでいるお前には、潮の満ち引きや満月も関係ないだろうけどな"と言う。

”そんなことないよ。月齢くらい常識さ"と反論するが、彼にはとてもかないそうにない。

”Hisa!今日は月が地球にとても近いのを知っているか”

”ウ〜ン。しらない。”と白状する。

”ここ極北では、野生動物から学ぶだけでなく。潮の干満や月、星などに耳を澄ませ、行動をしなければいかえない”と言う。

”月はな。地球から近づいたり遠のいたりしている。その距離も40万キロから35万キロと遠いときと近いときでは大違いだ。それによって同じ潮の干満も大きさが違うのだよ。知らないのか?満月や新月だけではないのだぞ。Hisaはまだたくさんここで体験して、学ぶことがあるな”と言われてしまう。

今日は雪の中へ車ごと突っ込んだし、明日、を引っ張ってもらわなければならい弱みがある。これ以上村での話題を大きくしてはならない。沈黙するしかない。

夕食は、月だの星だのと話は盛り上がった。村の人たちに囲まれていると、極北にいるんだと感慨にふける。時の経つのを忘れて、極北の村での笑い声は続いた。

8時、満潮の時間だ。外にでると、風はうそのようにやんでいた。いつの間にか、満月がハドソン湾を照らしている。今までに見たことのないような大きく、明るい月だった。

常識とは、ほんの僅かな事実にすぎない。真の常識は、人間の登場する前からから生きていた。人間はほんの僅かの常識を知ってるだけだ。それで他の生き物と違うとよく言える。目を覚ませと月が静かに語りかけているようだ。

大きな病をしたり、あるいは命に関わるような大自然の驚異にでも遭遇しなければ、人間は他の生き物より優れていると思い込んでしまう。ここでは、ついぞ忘れていた人間の危うさを呼び覚ましてくれる。大自然の持つリズムは、人の世の喜怒哀楽に、跳ね返ってくる。

極北の村チャーチルでは、人間が誕生した時から記憶していた感覚を呼び覚ますことが出来る。私には、まるで教会や寺の本堂にいるようだ。忘れそうになっていた野生に会えるかもしれない。人間の文明が、野生の叡智を曇らせていなければ良いが。

ますます持って、自然の叡智と野生の記憶を呼び起こそうと、心が弾む。(完)

(冒頭の絵は、両角陽子作)

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予告

 

ニューヨーク・テロとチャーチルでの衝撃(9・11’02)

 (その一)フロンティア・チャーチル村、そして陸の孤島に。

     −9月21日掲載予定−

 

極北の知恵・技〜生きるための叡智

 

 

『極北の知恵・技〜野生の教え』

 シロクマ、ホッキョクグマの教え

『チャーチルの秋、そこは命が入れ替わる

(その二)シロクマが出た!!銃がなくては                     (その三)秋の散歩〜白鳥

 

『しろくま、ホッキョクグマとエスキモー犬』


 (その二)極北での犬のブリ-ダー                                (その三)待て、シロクマを撃つな !!

 

『しろくま、ホッキョクグマが歩く町、チャーチルの人達』

(その九) 欧州人の到来とクリー・インディアン 

 

極北での漁

シロクマに学ぶ、体につく氷

雪で、50頭のカナディアン・エスキモー犬が飢え死にする

体感気温、氷点下100℃、それでもワタリガラスは

シロクマ写真撮影の約束/カナダ野生生物保護局

北極圏は雪はあまり降らない?犬が!!

先住民の特権

あなたにとって、春一番は?

極北で人を殺すには刃物はいらない

なぜしろくま、ホッキョクグマに魅せられたか?

しろくま、ホッキョクグマは、好奇心のかたまり

しろくま、ホッキョクグマのあいさつの仕方

しろくま、ホッキョクグマと野生生物監督局

しろくま、ホッキョクグマと地球温暖化

しろくま、ホッキョクグマの子ども、そしてその死

地球温暖化とやせ細るしろくま

アルコールと先住民

極北の魂、最後のフロンティア

京都とチャーチルの違い

野生生物保護管とシロクマ・パトロール

町のシロクマ対策

子供のシロクマ対策

このシロクマの写真、凄いだろう

揺らぐ先住民のこころ

しろくま、ホッキョクグマの村では、分かちあわなければ、     生きていけない。

ティーピー作り

ブリザードとホアイトアウト(風速110メートル)

ハンティングとその掟

極北の魂、最後のフロンティア

チャーチルでのハロウイーン

ニューヨーク・テロ(二〇〇一年)、チャーチルの町はねらわれている。危険だ!

しろくま、ホッキョクグマは、陸上最大の肉食獣、草食獣とは違う

デジタルカメラとの戦い

達人の嘆き

 
   
 

 

(C)1997-2006,Hisa.