チャーチルの夏、命輝くところ
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『チャーチルの秋、そこは命が入れ替わるところ
 氷の王国の扉が閉じる・・・・・・・

(その一)カナダガンと夏の終わり〜ここでは生と死が一緒だ


チャーチルは、世界地図に名前は載っているが、
現地に来てみなければ、人が住んでいることすら想像しにくい。そのため地理の本を読んでみた。だが、永久凍土(ツンドラ)と説明があるだけで、それ以上のことは分からない。

ここでは7月になっても北極点まで続くハドソン湾には、流氷が見えるし、海岸には古代からの大きな岩が露出している。日本では、学校の夏休みが近づく頃、ここではやっと氷が消える。しかし、氷のない期間は、ほんの僅かで、10月に入るともう氷が海岸を埋め始める。あとは氷の王国はその扉を閉じる。


氷は、海岸を削るため、昆布や草木が生えるのをゆるさない。そのため海岸線で見られるのは、岩と少しの砂利だけである。荒涼な土地としかいいようがない。
夏、秋と冬との区別は難しく、9月のはじめになると、背の低い草木もあたり一面に紅葉をする."オッ!真っ赤だね、明日きたら写真をとろう"と、シロクマ写真家のはずだったのに、紅葉に興味をそそられる。

次の日に行ったら、夜の寒さのため、すっかり茶色になってなっている。

"しまった!昨日のうちに撮影するべきだった"。二日前までは、緑だったのでまだ時間があると思ったのにと言った調子になる。紅葉といっても、目の前を一瞬に通り過ぎる野生動物たちと同じだ。見えたら、その時がカメラのシャッターチャンスだ。目に映ったら、すぐシャッターを切らなくては・・・・。

    *

10月も半ば過ぎた日、昼間、気温はゼロ℃くらいだった。それも翌日には、マイナス10度になった。不安定な気候が続く.冬への移行期である。

大声で"クワッ、クワッ"そして羽音を"バタバタ"と大きな鳥が飛び立つ。ブライアンは車をとめ、鳥の行方を見つめる。"カナダガンだ"、この時期カナダガンを見ることはないが、7月頃には子供を連れて、やかましく鳴きながらツンドラ一面を歩きまわっていた。

あごから後頭部にかけてと、胸に白い模様が特色だ。あとは黒か黒っぽい色をしている.北米では、よく見られるので間違えることはない。

バタバタと飛んだと言っても、低空を走るようなとび方をしている。"ブライアン!他のガンはもう南へ飛び去り、いないのにどうしたんだろう"と不安な気持ちで聞く.
"ウーン"といったまま車を町へ走らせる。
   *
三日ほどたっても、近くを通ると、ガンはまだバタバタと飛んでいる。そんなある日、同じ道を車をゆっくりと走らせる。勿論、気になるカナダガンを見るためだ。

二人の本音は、もう南へ飛び去っていることを祈っていた。辺りにはすでに氷が張っており、もう少しすれば海も氷が張り詰めるだろう。そうなるとカナダガンの餌もなくなる。

薄暗くなった道を、車で走る."クワッ、クワッ"、そして羽音を"バタバタ"と低空を飛ぶ。”やはり、いたのかどうしのだ”、言葉が通じれば慰めと手助けをするのに・・・。 ガンは、少し飛んだが、車からは遠くないところの海岸にうずくまっている。

”食べる物は、あるのだろうか?ひもじいだろうな!!そして、この寒さは大丈夫かな”

"夏の間に、銃で撃たれたのか、何らかの理由で羽を痛めたため十分に飛べないのだろう。もう仲間は、南の暖かい場所へ移動してしまっているんだ"と言いながら、ブライアンは、注意深く車をうごかし、ガンが見やすい場所へ移動をする。

カナダガンも警戒をし、首をあげる。でも逃げようとはしない。

"ブライアン!助けられないのか?"と、訴える。

"あのガンは、もう一ヶ月くらいここにいるんだ。Hisa、ここでは獣医もいないんだよ。お前の住んでいるところとは違うんだぞ"

私が育ったのは、近くにはうなぎで有名な浜名湖があり、少し歩けば、茶やみかん畑を見るのはたやすかった。天気がよければ富士山が見られ、また南アルプスも遠くに見えた。町は、楽器、繊維や自動車産業が活発で、いつもにぎやかである。

そのためか、そこでは野性と言う言葉は、似つかわしくなかった。自然が豊かなところと言ったところだろう。
   *
そろそろ帰ろうかと思った時、風に吹かれたのだろうか、白い枯草の固まりのような物が、風に吹かれて飛んできた。軽く、右へ左へふわふわと転がるようにやってきた。

"Hisa! ホッキョクギツネだ"とブライアンが指差す。枯草とばかり思っていたら、白いホッキョクギツネだった。

"あぶない!!カナダガンがやられる"と思った時、ホッキョクギツネは"フワッ"とカナダガンへ向かっていた。

"アッ"と思った時には、キツネはカナダガンの首に鋭い歯で噛みつく。一瞬のことである。


全長1メートルもある大きなカナダガンは、バタバタと暴れた。しかしキツネの鋭い歯と強い噛む力は、その動きを止めるのに差ほど時間は掛からなかった。ガンの足だけが小刻みにけいれんしている。

さぞかしカナダガンは、仲間と一緒に、南に帰りたかったのだろう。そして仲間が、次々と飛び立つのを見て、どんなにか悲しかっただろう。その思いも、すでに忘れることが出来たのだ。足のけいれんもなくなり、命が消えると共に・・・・。

もう冬の極北の地に、真っ白なホッキョクギツネと動かなくなった黒っぽいカナダガンがやけに目にはいる。

カナダガンにとっては、寒さだけが敵ではなく、ホッキョクギツネも敵だったのだ。すっかりとガンの動きが止まるのを確認したキツネは、ぺろりと赤い舌を出して口の周りについたガンの血を拭いた。

この時期は、ホッキョクギツネにとっても、冬の前にエサが欲しかったのだろう。カナダガンの命は、過酷な冬を迎えようとしているホッキョクギツネの命へと受け継がれたのだろう。

ここ極北で、野性と言うと、「粗野、無法な、荒れ果てた、野蛮」等の表現のほうがふさわしい。

ここは自然保護区ではない。カナダガンの死は、悲しい出来事だったが、いつも生と死が同居しているのが『野性の世界』なのだ。

    『 しろくまとのおはなし 

     つたない文であっても                              へたくそと言われても気負わず伝えてみたい                  混沌とした時代                                   心通じる人がいればよい                             一人いればよい。二人いたら、財産家。

      こんな写真が出来ました

    (2)自然は 不思議だね

 

 

予告

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(その二)シロクマが出た!!銃がなくては                     (その三)秋の散歩〜白鳥

 

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 (その二)極北での犬のブリ-ダー                                (その三)待て、シロクマを撃つな !!

 

『しろくま、ホッキョクグマが歩く町、チャーチルの人達』

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