チャーチルの夏、命輝くところ
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チャーチルの夏、そこは命が輝くところ
 こうしてチャーチルでオオカミに出会った
(4)

(その4)オオカミが軍隊を襲う、タイガの死・・それでも

人間が、目で見て、耳で聞いても、そして少しくらいは体験できたとしても、知り尽くすことはできない。断片的な知識は、時には真実を遠ざける。
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米ソの冷戦が終了後、チャーチルからは軍隊は撤退したので、今では、ここで兵士に会うことはない。

第二次世界大戦後の1946年、まだチャーチルに駐留していた兵士が、半狂乱になって、兵舎に駆け込んできた。チャーチルの村でお酒を楽しんだ帰り、血に飢えたオオカミに襲われそうになったとわめく。

報告を受けた、5千人ほど駐留していたアメリカとカナダの連合軍は大騒ぎとなった。その驚きが、オオカミの頭数や群れの数までが果てしなく膨らんでいった。その夜、村では外出禁止となり、しっかりと窓を閉めてオオカミの来襲に備えた。

完全武装した兵士が、夜間照明を携帯して動員され、オオカミ退治作戦が展開された。暗闇の中、ヒステリー化した状況下で、何頭かの犬が殺され、一人の兵士と先住民が、その騒動で怪我を負った。そのため、恐怖は高まるばかりである。そのうちの一人は死んだとも聞く。

夜が明けると、待ちかねていたように軍用機が夜が発進した。この極北では、第二次世界大戦中でも、戦いのため軍用機が飛び立つことはなかっただろう。

軍用機は、ついにオオカミを発見し、攻撃をしかけた。しかし、その攻撃で殺したのは、一頭の飼い犬であった。動くもの全てが、オオカミに見え、恐怖はつのるばかりだ。

戦いは、3日目になった。ついに軍のトラックが、問題のオオカミを発見した。そこには、狂水犬病だろうか身動きも出来なくなったオオカミが横たわっていた。飼い犬や人が死傷したあげく、兵士を恐怖に陥れた正体は全て兵士たちの銃から発射された弾であった。

北アメリカでは、人間がオオカミに殺された記録は、今日に至るまでない。それだけではなく、他の国でも人間がオオカミに襲われたことはいまだに証明されていない。それほどオオカミは、慎重な動物なのだ。
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邪悪な(?)オオカミの話は、まだまだある。
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1961年、フランス人の新聞記者が、生後間もないオオカミの赤ちゃんを育て、日に何度も何度ももミルクを与え続けた。その名をタイガとした。

彼の妻がオオカミにミルクをやろうとすると、怖がる。まだ目が見えないタイガは、彼の匂いしか知らないのだ。妻の匂いは嗅いだ事がないので、タイガにとっては恐怖でしかなかった。オオカミの嗅覚は、人間の500倍と言われる。

タイガを親オカミのところへ連れて行った時、親オオカミは自分の子を認識するどころか人の臭いがついた自分の子供を怖がった。ここにもオオカミの慎重ぶりが見られる。

野生動物が身を守るのは、攻撃より慎重な行動である。これは人間でも言えそうだ。どんな高度な車の運転技術より、交通マナーを慎重に守るほうが事故は少ないだろう。
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 一ヶ月も経つとタイガは人に構われるのが好きになり、突き放すと孤独にさいなまれた。まさに高度な社会性を備えた生き物の特徴である。

オオカミは、メスのほうが人間に対して警戒心が少ない。タイガはメスだった。
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やがてタイガが4歳になり、女(メス)盛りとなる。、隣の広い囲い地で10頭の仲間と遊んでいた一頭のオオカミを連れ合いに仲間から引き離してタイガに会わせた。

タイガは、オスのオオカミにすぐに惚れ込んだ。新聞記者夫妻は、やがて二頭が仲良くなりその子供生んでつれて歩くだろうと、二人の夢はふくらむ。
  

"タイガが死んだ!!"との連絡が来た。それは、連れ合いにするはずのオスのオオカミと出あってから、ほんの10日位だった。

新聞記者が、タイガの元へ駆けつけた時には、まとわりつくタイガはこの世にはいない。

なんとタイガを殺したのは、お婿さんにと思っていたオスオカミだった。

オスのオオカミは、金網越しに、元の仲間を見つけようとしている。もう一方の囲い地の中からは、元の仲間であった一頭のメスのオオカミがこのオスのオオカミを懸命に見つけようとしていた。

その時、新聞記者夫妻は自分たちが、とんでもないことをしたと気がついた。金網越しの2頭のすでに結びついていたオオカミの愛情を、切り離すと言う間違いを犯していたことを。

"タイガ!!ごめんなさい"。夫妻は、タイガをオスのオオカミに与えることで、仲間からの愛情を引き裂いていたのだ。

人間が決めた野生動物の常識でよかれと思ってしたことが、惨事を招いた。オオカミが、家族や群れを大切にする生き物であることをすっかり忘れていたのだ。

一年後、この二頭のオオカミには元気な4頭の子供が授かった。・・・・でも、それはタイガの子供ではなかった・・・・・・・彼女は自分の子供を抱くことはないままにこの世をから・・・。(フランスの新聞記者が、生後5日目のオオカミの子を育てた日記より)

人間の世界では、家庭崩壊の話を聞くことがある。オオカミは離婚などしない。オオカミは悪の代名詞どころか、人間以上に家庭思いで、仲間の間では強い絆で結ばれている。

オオカミの群れは、オスとメス、前年の子供・前々年の子供を含めて7〜13頭から構成されると言われている。

数十頭の群れの話を聞くが、一度にそれだけの数を養えるほどの獲物を狩ることは自然界では難しい。その故、ありえないことが正しそうだ。

オオカミの繁殖期は、春。平均4〜6匹くらいの子供を産み、当面は巣穴にとどまって子供を育てる。その間は、父親と家族が、母親と子供達に獲物を運んでくる。子供達のためには、一度飲み込んで柔らかくした肉を吐き戻して与えます。このように、家族は、団結して子育てを行う。

 


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