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チャーチルの夏、そこは命が輝くところ          極北では、尺度が違う

(その八)ベルーガ,シロクジラ,シロイルカA 〜シシャモの大群

ベルーガの群れは、一度水の中に潜ると、もう逃げてしまったかのように消える。泳いで行った方向を見ていると5分以上しないと浮いてこない。中には、浮いてこないのもいる。この極北の水の中を、きっともっと長く潜れるのだろう。

水面すれすれまで浮いてくると、その度に頭にある鼻孔から"プッシュー、プッシュー"息継ぎのための潮を吹く。

ざっと見渡しただけでも、5〜15頭くらいの群れが10以上も見かけられるから、100頭とか、それ以上になるだろう。次々と現れるから、その数はわからない。

吹いた潮の高さは、2メートルくらいだが、ベルーガの数が多いので、あちらこちらで揚がる潮が見える。

以前、米国のメイン州おきで、ホエール・ワオチングをしたことがある。いくら遠くでも見えれば大騒ぎをした。が、チャーチルでは、ベルーガは見えるのは当たり前の話で、目があったとか、触れそうになったとかが話題で、その違いに驚く。

このチャーチル川やチャーチル周辺には、毎年4〜6千頭のベルーガが集まり、夏はその白さで埋まる。そのためハドソン湾でも、チャーチル川でも、”プカリ、プカリ”とベルーガの白い背中が見える。これもチャーチルの夏の風物詩である。

野球でも、芝居でも同じだが、選手や演技者の数のほうが、観客数より少ない。が、チャーチルのベルーガは、見られるほうが多いのが面白い。

極北では、ほとんどの生きものの数は、見る人間の数より遙かに多い。

ベルーガの雄は大きく、カヌーより長い。体重も1トンを越えるのもいる。大人なのだろう真っ白なのがたくさんいる。小さなのは灰色や褐色色をしているのが見える。

大人になるには、5〜12年掛かるが、大人になると、その白さは、純白でシロクマより白い。

考えてみれば、ここには真っ白な野生動物が多い。シロクマ、ホッキョクキツネ、ホッキョクウサギ、ライチョウ、ホッキョクスワン、白ガンやシロクマ、そしてこのベルーガだ。

そうだエスキモーが着ているパーカーもみんな真っ白だ。雪や氷の中では、保護色の役割を果たしてくれる。白無垢の花嫁さんの集合だ。雪の中で撮った写真、真っ黒なワタリガラスと白いシロクマの写真は、貴重かも知れない。もう一度探してみよう。


ホッキョクウサギ

   *
気のせいか、昼間よりベルーガの数が多く見かける。それに、鳥たちもいつもより騒がしい。それはカヌーに乗っているので感じるのだろうか。カモメの仲間が、海面すれすれに何羽も飛んでいる。

"レイモン!見ろ津波だ?ウーン、満ち潮かな?海からこっちへ向かって、波が押し寄せてくるよ"。そこには、小さな鳥だけでなく、ハクトウワシだろうか大きな翼の鳥も旋回している。

"どこどこ!"と聞き返してくるが、レイモンには見つけられない。

"あそこだよ。20〜30センチくらいの高さの長い線が河口から押し寄せてくるじゃないか。海の波とは違うぞ、それに何本も"とカヌーのパドルで方向を示す。

相変わらず、風もなく静かな夕暮れが続いている。薄い船底のカヌーなのでやたらと不安になる。いつに間にか、カメラは床に置かれ、カヌーの縁をしっかりと手で握り締めている。

その波の長さは、3〜40メートルはある。それが並んで、川上へ向かって押し寄せるように来る。

"レイモン!カヌーの向きを波が来る方向に直角にしたほうがいいんじゃない。それでないと横波にやられるよ"と不安を伝える。

"Hisa! あれはな、シシャモの大群が押し寄せてきたんだよ。鳥が急降下しているのが見えるか?魚とっているんだよ"と笑っている。

押し寄せてくる波のあたりには、鳥たちが騒がしくしている。魚採りだ。鳥の急降下は、水面に叩きつけられる直前に、身を起こして少し滑空をするが、飛び上がる。大きな鳥も参加をして騒いでいるようだ。

"日本にはシシャモはいないのか?ずいぶん大きな大群だな〜。そうだ今夜は満月だ"と言って空を見上げる。

この時期、チャーチルのあたりでは、毎年満月の夜にシシャモが産卵のために押し寄せてくるのだ。それに向かって、鳥やべルーガが集まってくると言う。シシャモの大群は、産卵のためチャーチル川を上ってるのだ。、そして鳥やベルーガが追いかけている。

昔から、人の生死は、月の引力でおこる潮の満ち干に関係があるといわれている。人の命は満ち潮の時に生まれると言う。シシャモの産卵と同じだ。そしてベルーガや鳥にとっても、シシャモをたくさん食べて生を受けるのだろう。みんなお月さんの力に揺れているんだ。

"昔はな。シシャモが押し寄せてくるとバケツをもって海岸で拾いにいったもんだよ。大切な蛋白源だったんだよ。今では、シシャモ拾いに行く人はいなくなっていなくなってしまったな゛と呟く。

"べルーガは、シシャモが大好きなんだよ。こんな日には、シシャモを追ってベルーガも押し寄せて来るんだよ。明日の朝、海岸へ行ってごらん。シシャモがまだ見えるかもしれないよ"

なんだかベルーガの群れが多くなってきて、"プッシュー、プッシュー”の音が増えてきた。群れは、連携してシシャモを囲んで食べているようにも見える。


ベルーガがチャーチル川を目指して集まるには、それだけの条件があったのだ。魚にとっても、ベルーガにとっても、彼らにとっては、チャーチル川はスープの流れだったのだ。

ここにも、極北の命輝く夏に出会えた。

翌日、海岸へ行ってみると、潮が引いた後の海岸には打ち上げられたシシャモが海岸線を真っ白にしていた。そのシシャモで鳥たちが、"ギャー・ギャー"鳴きながら大宴会をしていた。シシャモの数は、何百万匹だっただろう。もう一つの白い色と、大自然の数の多さを発見したことで興奮を覚える。

 

続く

(次は、ベルーガ、シロイルカA〜歌声につて話そう)

(C)1997-2006,Hisa.