チャーチルの夏、命輝くところ
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      (夕陽が、旅人の心を温める)

チャーチルの夏、そこは命が輝くところ                   極北では、尺度が違う

(その七)ベルーガ、シロクジラ、シロイルカ@が、カヌーを取り囲む


夕陽がハドソン湾を照らしている。夕陽を体中に浴びながら、過ぎた日々のことをゆっくりと思いだす。懐かしい人たち、悲しかったこと、うれしかったこと。

天気が良いと、夕陽はオレンジ色から赤に変わる。その後は、暗闇にむかう。空気は冷たくなっても、昼間、温まった岩はいつまでも温もりを残す。そこに座っていると、温もりが極北への旅人の気持を暖かくしてくれる。

チャーチルの近くで、40億年前の岩が発見された。ひょっとすると座っているこの岩も、太古のものかもしれない。しっかりその感触を体で記憶しておこう。

夕方、と言ってもこの季節、夜12時になっても、まだ明るい。いったん暗くなっても、朝2時半頃には日が射してくるのですぐ夜はあけてしまう。もちろん暗くなれば、ここはオーロラ帯の真下だから、夏でもオーロラが見える。夏、オーロラが現れているのだけれど、明るい時間が長すぎるので人間の目には見えないだけだ。

*

8時過ぎ、夕食をして宿に帰ると、宿のレイモンが待っていた。

"Hisa。カヌー遊びをしないか?゛と声を掛けてくる。

カナダ人はやたらに太った人がいる。彼も太っているので、散歩やスキーなど何かと身体を動かすことに努めている。奥さんのアンが”レイモン。もう少しだけ体重が減ると素敵なんだけどな”とウインクするので、その気になっているのかもしれない。

”レイモン!もう8時だよ。カヌーで川へ行くのは遅すぎて危険じゃないか?゛

"今からが涼しくて、カヌーにはいいのだよ。それに今日は、風もないし。でも温かい格好をしていれば大丈夫さ"と、レイモンは笑いながら身支度を整えている。

毛糸の帽子と手袋、フード付のパーカー(上着)、その下は厚手のセーターだ。オーバーズボンも必要だろう。日本では、30℃を越していたのに…。そしてザックの中にはカメラを押し込む。古いがライフジャケットも身につける。

車で西に向かって10分くらい走った川岸から10メートルも歩いたところに、彼のカヌーの置き場がある。河原には、石がごろごろしている。色は黄土色で、漬け物石に丁度よい大きさだ。氷が溶ける春の間に、上流から氷と一緒に流れてきたのだろう。

誰でもカヌーを置いたところが船着き場になる。カヌーは、チャーチル川岸に鎖でつないであった。決して、かっこよいカヌーとはいえないが、擦れたりして傷ついたところは、丁寧にペンキが塗って手入れしてある。年季の入っているカヌーは、大自然と溶け合う。

チャーチルでは、すべて自分でやる。だから物をとても大切にする。車でも、家の中の冷蔵庫だって、どれも中古ばかりだ。でも手入れはすばらしい。そして最後まで使い切る。

”この冷蔵庫は、弟からもらったの。息子の長靴は、隣から。娘の机は、教会からのも”

          (チャーチル川の近くの岩から、覗いているホッキョクキツネ)

どこを見渡しても人影はなく、カヌーで、チャーチル川を漕ぎ出す。見渡す限りの大自然が、我々二人だけのものだ。近くの岩の上から、ホッキョクギツネが顔を覗かせる。ホッキョクギツネは道端でも、家の周りにも現れて珍しくない。写真を撮る気にもならないくらいだ。ほかの種類のキツネもよく見ることができる。

”Hisa!食べ物をキツネにやってはいけないよ。餌を食べるとき鋭い歯で手も一緒に噛みついてくるから、あぶないんだ”、これ極北の常識。

ここの人たちにとっては、生き物すべてと共に生きているのだ。

川幅は広く、1キロ以上もある。秋の終わりには、大型トラックでも乗れる厚い氷で埋め尽くされ、4月頃には町の人たちは、氷のはった川を歩いて海に浮かぶチャーチル砦にハイキングに行く。夏には、満々と水をたたえて、ハドソン湾へ流れていく。

カヌーの底の厚さは、1センチもない。漕いでいると、水が当たる音が小気味よい。川がささやいてくれるようだ。真っ昼間とちがって、不気味に水面が暗い。少し油断をすると、水の中に飲み込まれそうだ。

”川の神よ穏やかにしていてください”、と祈らざるにはいられない。

 

ハドソン湾が氷で埋め尽くされている頃は、北極点近くにある凍らない海で過ごすベルーガ(シロイルカ)が、この時期、4−6000頭もの群れをなして押し寄せてくる。チャーチル川へ魚を追いかけて、子育てをするのだ。群は、鮭の遡上のようだ。

川岸から20メートルも漕ぐと"プシュー、プシュー"ベルーガ(シロイルカ)の潮を吹く音が聞こえてくる。見えるだけでもその数は、20−30頭はある。一つの群が潮を吹き終わると、新たな群が潮を吹く。、

あっちでもこっちでも噴水があがる。なかには、我々のカヌーに興味を持って、近づいてくる。

ベルーガなど鯨の個体数が減っているというが、ここでは例外だろう。

500メートルほど漕いだ先は、なんとベルーガの群のまっただ中に入り込んでしまった。一つの群は、5〜15頭くらいだ。その群が何十、何百といる。あちらこちらに白の巨体が見える。我々のカヌーより遙かに大きい。

その巨体にぶつかったり、攻撃掛けられたらどうなるのか。川岸まで、ずいぶん距離がある。夏といっても、永久凍土から流れ込む水は、冷たい。川に落ちたら、心臓が止まるだろう……。

あたり一面で、ベルーガが潮を吹く。"プシュー、プシュー"と音を立てて

続く

(次回は、シシャモのの大群を書こう・・・・・・)

 

(3)まっしぐら

 

 

 
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