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しろくま、ホッキョクグマは,泳げる?
 
シロクマ、白クマ
  (その二)
―しろくまは、"海のクマ"―

"速く泳げないかもしれないが、距離は泳げる"と言いながらも、ブライアンはシロクマから目を離さない。岸に上がり疲れたのか、横たわっているシロクマを双眼鏡で眺めながらブライアンは、"泳ぎうまいな・・やっぱりシロクマは、海のクマだな゛と,顎髭をなぜながらつぶやく。

"えっ!Sea Bear(海のクマ)?"

“主食のアザラシは、海に住んでいるだろう。それにアザラシの居場所である氷は割れたり流れたりするしね。泳げなくては、エアにありつけれないよな。学名では、Urus maritimusと呼んで、それは海のクマと言う意味なんだよ。時速6マイルだから、10キロメートル近くの早さでおよぐんだ、それも30キロメートル以上一気に泳ぐんだ。さっき潜っていた場所は、そんなに深くないけど、海だと5メートル以上深く潜ったままで泳ぐんだよ。潜水艦みたいだろう"と極北の達人は、シロクマのことになると、目を細めて話を続ける。。

一時間くらい、水の中で氷と遊んだり、潜ったりしていた。泳ぎ上手な海のクマだ。
  *
 シロクマを近くで見たさに、サンディエゴ(米国・カルフォルニア州)にあるシーワールドへ行ったことがある。そこには,シロクマ専用館がある。

 シロクマ館では、入口でヘリコプターの飛行映像を見せてくれる。その後、本物の氷のトンネルを歩いて行く。北極に居る気分にさせる演出なのだろう。さすがデズニーを生んだ国だ。地下のガラス張りの部屋から、泳ぐ様子が見えるようになっている。

泳ぎ方は、アザラシを水中で捕らえるほど速くはないが、その動きや体つきは、アザラシを追うのに適している。身体を回転させたりし、なかなか器用なところがある。潜水艦もシロクマの泳ぎには負けるだろう。なるほどシロクマは、海に生きる動物である。

 高さが3メートル以上もある大きなガラス越しに、鼻や口から空気を少し吐きながら潜っているのが観察できる。目もしっかり開けて、ガラスに顔を近づけてくる。小さな子供達は、怖さのあまり"キャー!!"と大騒ぎをする。厚いガラス越しと言え、ほとんどシロクマの顔とぶつかるくらいの近さだ。大人でもガラスが割れたらと、不安になる。

 とはいえ、極北のチャーチルで見るのとは雲泥の差だ。寒さや危険の中でこそシロクマの実態に迫れるというものだ。

チャーチルで、野生生物監督官が、調査のため麻酔をかけるのに出会ったことがある。麻酔で眠らされたシロクマの毛の生えた足の裏を触った時、小さいながら"水かき"のようになっていた。

 氷が溶けている場合、アザラシ狩りが出来ないので、海底まで潜って、その水かきを使って、海草や貝などを取るのであろう。時には、魚をとるために海に潜ってくる鳥を、水中から捕えることもあるという。

 泳ぎ方は、犬かきスタイルで、慌てたり、疲れた素振りを見せない。前に進むのには、パドルのような前足を使い、交互に前に繰り出し、足をお腹の方へかきこむ。平泳ぎの手を左右交代に泳ぐと思えばいい。

昔からその泳ぐ姿を見て、イヌイットは、シロクマが空を飛べると信じ、石や怪獣の骨などに飛ぶ姿を彫りつけた。泳ぐ時、後足は動かしていないように見えるが、方向転換をするときの舵取りの役割を果たしている。また何かにぶつかりそうになると、後ろ足を使って避ける。まさに"海のクマ”だ。

 2時間近く見ていたのに、見る者を飽きさせない。シロクマも、気持ちが良いのかいつまでたっても泳ぎをやめない。でもその姿は、方向感覚すら失うほど氷で埋まった生まれ故郷の広い北極の海が懐かしそうだ。やはり氷の張った海原のほうがよく似合う。  

哺乳類の動物は、多くの場合、食糧の確保や子育てのためにテリトリーを作る。ほかの雄から雌を取られないようにするということもある。しかし、シロクマの場合は、主食のアザラシが氷に乗って移動するから、氷原にテリトリーを持っても意味がない。ましてや地平線の彼方まで凍りついた氷原では、”ここは俺の場所だぞ”主張しようとしても出来ない。

 漂流する氷に乗って、アザラシ狩をする。ところが氷が溶け始める夏になると、思いもかけないところまで旅をする。氷は、風や潮流に乗って、大西洋にまで出てしまい、1000キロ以上も遠く離れたカナダのセントローレンス川で発見されたこともある。

100キロ位なら続いて泳ぐことはできるだろうが、原則的に氷や陸づたいを取る。
氷の上からアザラシ狩ができるのは、晩秋から4−5ヶ月間だけだ。その短さゆえ、多少風や波があっても、アザラシを見つけるまで氷から氷へと泳がなければならない。泳ぐと言うより、氷に乗って漂流すると言ったほうが適当かもしれない。科学者達は、シロクマに無線機をつけたりし、シロクマの行動範囲を研究している。それは気まぐれなシロクマと気まぐれな氷の流を追っかけているようだ。ご苦労さんなことだ。

イヌイット達は、シロクマのことを"偉大な放浪者"と言うが、無理もない
 5年間も毎年同じ時期に、チャーチルへ足を運んでいると、同じシロクマに会うことがある。多分、シロクマが乗った氷が、夏になってチャーチルの近くで溶けたために、上陸したのだろう。(完)

 

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