チャーチルの夏、命輝くところ
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NEW!!10月10日03年  

チャーチルの夏、そこは命が輝くところ
 こうしてチャーチルでオオカミに出会った
(6)

(その六)オオカミ"ツンドラ"との会話〜マーキング(匂い付け)

”Hisa!ここまで近づかないでね。私たちの場所だから”

オオカミには、匂いで互いを見分ける。石、木の根元、土など何でも記憶を残すため、尿をかける。人間で言うなら地図、信号、道路標識、名刺代わりに当たるのだろう。時には、匂いを手がかりに、家族や群れの確認もするから、戸籍謄本でもあろう。

人類が生まれる前から、オオカミは匂いで会話をしていたのだ。私たち人間も多くの言葉がなかった時代には、オオカミのように匂い付けをしていたかもしれない。

そのためには、人間の先祖は強力な嗅覚を持ち合わせていたにちがいない。言葉を自由に操れるようになったのは、ずっと後の話だから。いまも人間がオオカミのように鋭い野生の嗅覚を持ち続ける努力をしていたなら、今の地球は違う姿であったかもしれない。

おそらく匂い付けで、オオカミは性別、兄弟、親、年齢もわかるし、食べたものがカリブーなのかカナダガンなのかも知ることが出来る。以前狩を一緒にした群れなのかも、知ることが出来るのだろう。

匂い付けをすることで、自分たちのテリトリーを他ののオオカミの群れに伝えることも出来る。しかし実際には、その範囲は相当あいまいなものに違いない。あくまでも捕食できる食べものの量に大きく依存する。

家畜などが居る地域では、捕食がしやすくテリトリーは狭くてよいが、森林に住む動物を狩る場合は広くなくてはならない。

移動する動物を追う場合となると、事情は異なる。特に永久凍土(ツンドラ)では、季節によって激変する。狩猟対象がカリブーなら、テリトリーは、更に広がる。

北極圏の奥深くまで、カリブーを追っていくオオカミも総称して、北極オオカミと言うようだ。だから目の前のオオカミは北極オオカミなのだ。

   *

オオカミが、腰を低くかがめ、下向きに放尿をしてマーキングをする。尾を上げているのは、尻にある匂い腺から匂いが出やすくしているのだ。そして少しでも体を大きく見せることで、威嚇をしているのに違いない。

永久凍土(ツンドラ)で、出会ったオオカミなので"ツンドラと名前をつけよう"。このオオカミはメスなのか。オスなら犬のように片足を上げるに違いない。でも、マーキングと放尿とは違うかもしれない。いつしか地球が織り成す不思議に目を輝かしている自分がそこにいた。オスなのかメスなのか、早く知りたい。今度は、別の石にマーキングをしている。

ツンドラ!分かった、分かった。ここはお前のテリトリー(縄張り)なんだな。私に一緒にいる時間をもう少し貸してくれないか・・・私は旅人だから、お前の邪魔なんかしないよ。カメラが気にいらないのなら、しまってしまってもいいぞ"。と、車のエンジンも止めて少しでも刺激を与えないように心がける。


時には、体を地面にこすり付けもしている。頻繁にマーキングをしていた後、急に立ち止まった。

頭を上に向けて、下唇を前に伸ばし口を軽くあけ、大きく息を吹き出すように"ウオ〜ン"と鳴き始めた。オオカミの遠吠えだ。夏なのに、ハドソン湾から吹いてくる冷たい風を感じながら聞く遠吠えは、まるで歌声のように心に響く。

”あれー。オオカミの遠吠えは月夜だけじゃないぞ”。それは、夜だけ聞けるものと思い込んでいたが違う。

自然界は、様々なのか、それとも言い伝えや本で読んだことをうのみにしてしまっていたのだろうか・・・。

耳は、後ろにねかせている。20秒なのか30秒なのか?とにかく長く感じる。何回か遠吠えを続けた。尾は緩やかに下げているから安心しているのだろう。

オオカミの遠吠えは、仲間を呼ぶだけではなく、縄張り宣言でもある。オオカミの不可侵条約は、先史時代から引き継いでいるらしい。

長時間持続する匂いつけと、遠吠えによる瞬間的やりかたとでコミュニケーションの効果を上げている。

争いの耐えない人間の世界こそ、野生の知恵から見習うべきである。

今の私には聞きわけることは出来ないが、同じ遠吠えでも。様々な表現があるという。

”ウオーン”、初めは強い鳴きが、その後は哀愁を帯びていく。一回目の鳴き声は聞き分けたとしても、2回目以降、100頭もいるカナディアンエスキモー犬が参加して、大コーラスとなってしまった。この壮大なコーラスを聴いたのは、自分ひとりだけだ。

コーラスが起こったのは、極北のシンボルと言えるカナディアンエスキモー犬は、オオカミが祖先だったことの証だろう。

野生のオオカミとの大合唱は、地球のてっぺんまで来た旅人の耳をそばたてる。

 

どこかにツンドラの家族がいるに違いない。あたりを見渡すと、ハドソン湾を背にしてもう一頭オオカミがいた。200メートル以上はなれているのだろう。遠すぎて”ツンドラ”との大きさの区別が出来ない。オスか?メスか?なんとか知りたい。”ツンドラ”の遠吠えは”こっちへ来たら。心配はないよ”と家族に知らせているのかもしれない。

どの本にも、オスのオオカミは、メスと違って慎重と書いてある。。だから人間には近づいてこないと言う。それを自分で確認するには、もう少し時間が欲しい・・・・”ツンドラよ!消えてしまわないでくれ”

頭を上げて遠吠えをしているようだが、歌声にしか聞こえない。遠吠えしながら会話をしているのだ。

はるか遠くにいたもう一頭のオオカミは”ツンドラ”の遠吠えに一回応えたかと思うと、消えてしまった。マジックのようにだ。ハドソン湾だけが青々とみえる。
やがて”ツンドラ”も仲間を追って、消えてしまうのだろうか・・・・・・

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(C)1997-2006,Hisa.