[HOME] [新着情報] [目次] [講座シロクマ] [シロクマinチャーチル] [フォトギャラリー] [玉手箱] [素材] [掲示板]  

しろくま,ホッキョクグマと歩く

−はじめてのことだらけの日々−

カナディアン・エスキモー犬のブリーダーは動物好き

「 数は少なくても、人生には、一言で表現しきれないような人に出会うことがある 。それは、とてもきれいに整理できないが、しかし深い意味がある人であったりする ことがある。意見を分け合い、真実を求め合い、過ちも弱さも理解し合う。そのうえ 、無理なくお互いの良い所を指摘しあえる。それは自分たちの境遇が、とてつもなく 違っていても。それは、行き違うような一瞬の出会いだけであってほしくないような 人でもある」

朝食が終わると、ブライアンとシロクマの写真撮影への時間だ。昼食用に魔法瓶にブ ラック・コーヒーを入れ、チーズ、サンドイッチとりんご2個を鞄に詰める。あとで このブラック・コーヒーが、極北で生き抜くためのものであることを学ぶことになる。 "プー、プー"と緑色のトラックが家の前に停まっている。寒さのためか、トラックの 排気口からは、真っ白に吐く息のように排気ガスが白く昇っている。

レストランのコックが紹介してくれたガイド役のブライアンが、緑色の"キャデラッ ク"で迎えにきてくれた。それは名ばかりで、緑色に塗った1973年製だから25年ほ ど前のそれは古くて、重そうな3−4トン・クラスのトラックである。バンパーも曲 がっている。こんな車で、東京を走ったら、新聞記事になりそうだ。クラッシクカー として注目されるのではなく,こんな車、車検受かるのと疑われるからだ。どう見て も、おんぼろトラックだ。彼の座席は、すでに穴があいていて、座席の中からスプリ ングが見える。

"いま行くよ!"と、窓越しに手を振る。時間こそ20分遅れだが,昨日約束したとと おりブライアンは迎えに来てくれた。宿のアンも、"ブライアンは,気まぐれだから くるかな?"と心配していた。座席は、前後2列あるが,寒さよけの衣類や、カメラ 機材と食料をのせたら、二人で大きな車内は一杯になってしまった。

彼は,コーヒーの入った大きな魔法瓶、1リットル入りのジュース、サンドイッチ、 ベーコン、チーズ、クッキー、キャンディー、それとたばこを車に積みこんでいる。 床には、銃二丁と一〇〇発はあろうか、ダンベルとにつめた弾と箱に入っている弾が 用意してある。今までに、銃などさわったこともないから、まるで西部劇の一場面に 出くわしたようなものだ。 こんなに食料をたくさん持参するのは、極寒の地では、予測できないこと がおこる からだと言う。

昨夜、車の中で一晩置き忘れていたジュースは、寒さでシャーベット になっている。彼は40頭のカナディアン・エスキモー犬のブリーダー(犬の繁殖をす る人)でもあるが、画家、極北における大自然の達人、そして野生生物保護局、世界 から来るプロのカメラマン、シロクマを研究している科学者たちがシロクマやベルー ガの情報を聞きに来る人だとは、この時まだ知らなかった。 

いままでタンドラ・バ ギーに乗るため,毎日とおった道なのに,今感じる世界はまるで違う。 車で町から東へ一歩出ると、いきなりまっ平らな雪原に出た。まさに極北の大自然の まっただ中だ、ブライアンは、急にそわそわする。ブライアンが急ブレーキをかける 、と言っても道は凍っているからそれなりの急ブレーキだ。"おまえの名前は、Isaだ ったかな?"

この国では、英語とフランス語が国語である。だからフランス語をし ゃべる人も多い。Hiの発音ができないからだ。"Hisa!ですよ"とすかさず反論する 。"そうかHisaか。Hisa! Hisa! だな。2時の方向を見てごらん。そうだ道路から1 メートル位先だ"そこには,ほんの少し前にシロクマが歩いていたと思われる足跡だ 。

この時、はじめてブライアンが自ら口を開いた。ブライアンに会ってから、二日目 なので、お互いがよくわからないから、すこし緊張していたが、急に気が楽になる。 "ウヘー。ここ町の傍じゃないですか?こんな所まで、シロクマは現れるのですか? "と、大げさに驚いてみせる。驚く私を見て、"にやり"笑う。車を走らせながら"11時 の方向を見てごらん!飛んでいるのは、雷鳥だぞ!""今度は、3時だ!白いのが見え るだろ!ホッキョクギツネだぞ!"

少し車を走らせれば、急ブレーキ、走れば"空を 見ろ、次は海側だ!"、大騒ぎだ。本当に野生動物が好きな人だと安心する。"ブライ アン!遠いけどシロクマだ!"とやっと何かを見つけ言うと。"Hisaはまだ自然を見る にはなれていないな。雪の塊じゃないか"と言われてしまう。"今に見ておれ。俺だっ て負けなくなるぞ"といいながらも、原住民とは競争にならないと悟る。

30分も、車を走らせると、そこには広大な湖沼地帯があり,犬の飼育場所である。勿 論、置き去りにされれば、それっきり死んで消えてしまいそうな広い原野だ。 (続く)

前のページへ戻る 目次ページへ戻る

(C)1997-2006,Hisa.