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犬ぞりで、ハドソン湾を走る(その一)犬は、甘やかさない。しろくま、白熊、ホッキョクグマ

 さすが極北の大地も4月の終わりともなると、嬉しくなるような春の陽光を感じる。と言っても、まだハドソン湾は、北極点まで白砂糖を蒔いたような真っ白な氷が、び っしりと敷き詰められている。あと見えるのは、青空だけだ。

 この時期は、恐ろしいシロクマも氷に乗ってアザラシ狩にいっている。だから夜、町を歩いても、シロクマが背後に現れるかと思う緊張感はなく、平和そのものだ。それでも温度は氷点下15 −10度位だろうが、昼間が数時間と短い冬と違って、この時期の昼間は長く、12時間ほどもある。

"Hisa! 今日は犬ぞりの訓練に行こう"とガイド役のブライアンが言う。
"エッ!犬ぞりの訓練!!!やったー・・・・・"

 ブライアンは、いつになったら犬ぞり訓練に誘ってくれるかと、その時を待っていた。一度は経験したいあまりに、ハドソン湾を犬ぞりで走る自分の姿の夢も何度も見た。彼は、私の気持を読んでいたのだろ う。

"犬ぞりの訓練!!やったー"と言ったものの、その後は、
"ウーン、ウン、ウン・・・ ・"と、次の言葉が見つけられない。

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 いかなる動物も、野生本能を持っている。だから犬と言っても決して油断はならない。飼い犬が飼い主に噛みついた話はよく聞く。そのためには犬に人間が主人であるこ とを、しっかりと躾なければならない。特にエスキモー犬など使役犬を、甘やかすととんでもない危険がともなう。

 その点、極北に住んでいるイヌイット達は住んでいる土地での犬の扱い方に熟知しているし、その扱い方は厳しい。犬を重いブーツで、思いっきり蹴っ飛ばすことがあっても、頭をなでたりすることはない。エサもあまり与 えない、二日に1回位しかやらなく、常にひもじくさせ気が立っている状況でないと、重いそりをひかない。

 そしてそり犬は、いかなる状況でも、人の命令どおりにそりを引かせなければ、人の命も危険になる。だからこれら犬の訓練は、徹底的なものである。心底から人間は、強く怖いものであることを犬に教えなくてはならない。

 長く唸る鞭は、犬ぞりには欠くことはできない。"キャン。キャン"と鞭に打たれ逃げ回るようにそりを引かせる。勿論、鞭の当たり所が悪ければ、犬の顔や耳など毛のはえて いない肌は引き裂かれ血が飛ぶのは当たり前だ。

 いつも鞭でたたかれている犬たちも、鞭でたたかれれば、痛いのを知っているから全速でそりを引く。いくら鞭の扱い名手でも、強い風の時や、走るそりが揺れれば、狙った犬ではなく隣の犬が鞭で打たれ ることもある。少しでもさぼる犬がいれば、その近くでそりを引いている犬たちは当然鞭の被害者になる。

 鞭がだめなら、棍棒でも何でも良い、殴って犬に痛さや人間の怖さを教えることができれば良い。もし犬がそりをひくのを、さぼったりすれば、猟 で食料を得ることができないだろう、そのことは死を意味する。しかしどんなに犬が凶暴になっても、犬ぞりの御者は、いつでもそりに乗っているか、すぐに乗れる用意 がなければ、凍てつく氷原で人間は生きていくことはできない。だからつまらぬ動物愛護論は、ここでは通じない。

 過酷な自然では、感傷的考えでは、食べ物を得ることもできないし、そのため自分の命が危ない。

(続く)

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