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シロクマの母子を、雄グマが襲う(11月2000年)その一

この秋チャーチルに来てから10日間、青空がのぞいたのは、たった一日だけだ。地球温暖化の影響なのか、とにかく写真撮影には厳しい毎日が続いている。

二日間続い た風速70メートルのブリザードは、少しは静かになってきた。ガイドでカナディアン・エスキモー犬のブリーダー(繁殖者)でもあるブライアン は、犬に餌をやり終わって、のんびりとしている。

早朝から、彼のトラックでシロクマの写真撮影を楽しんでいる。

ここは、町からは車で30分位の場所にある彼の犬の飼育場である。北側には、北極につながるハドソン湾が凍り始めている。岸から内陸へは見晴るかす限り永久凍土が広がっており、それ以外何もない。ここまで来る間に、見かけた家は数件だ。空白の大地だ。

茫漠とした景色に目をやっていると、突然、"HISA!車の中に入れ!"とブライアンが叫んだ。

ブライアンの声は、時ならぬ気配である。小雪が降る空模様の中、振り向くと目の前にシロクマがいる。実際には50メートルくらいだろうか、辺りが広すぎて距離感 がつかめない。

凍りついた湖の上に、"マム(Mama―おかあさん)とカブ(Cub―こども)だ"

シロクマは夫婦で行動することなく、単独行動をする動物なのだ。 母グマは誰の保護も受けず子連れで歩く。腹を空かした雄グマに子グマが襲われる危険性は充分にある。10月になってから、このあたりには雄グマがうろうろしてい る。雌グマは小熊を守るために雄クマと戦ったら勝てないが、雄より早く走れるので、自分だけは守れる。

"ブライアン、子グマは、生まれてどのくらいたつ?"

"そうだな小さいから11 ヶ月だな"。

言い終わらないうちに"HISA!銃をとれ!弾もだ!急げ!"

大きなトラックの中と言っても、車の中にはコーヒーの入った魔法瓶、昼食用のベーコン、 パン、クッキー、防寒具、そしてカメラ機材で埋め尽くされている。車の中をまるでガラクタを放り込んだ物置のようだ。

ブライアンが急いでいるのは、母子グマに向かって4頭の雄クマが走り寄ってきて いるからだ。勿論、腹をすかした雄グマは、子グマを食べるためだ。あっという間に、500キロ以上もある雄クマどもが凶暴さを発揮しようと近づく。250キロ位の 母グマは、優しく、そして小さく見える。雄グマに対して頭を下げて威嚇する。子グマを必死で守ろうとしているのだ。

雄グマが近づく。母子で逃げようとするが、子グマは小さく、チョコ チョコとしか歩けない。近くにいたドイツからきたシロクマ写真家の夫婦も子グマが襲われてしまうのではないかと、固唾を飲んで見守っている。白人の奥さんの顔色は白さに青白さが加わって真っ青だ。

ブライアンは母子グマを雄グマから守るべく、クラッカー弾(音はするが殺傷能力はない)を何発も撃ち続ける。

"ブライアン、もっと撃て!もっと左だ!"

別の雄クマも来たではないか!弾が風で 流れてるじゃないか。自分は銃を撃ったことがないが、心では"銃のへたくそブライアン!"となじっている。

こうなるともう戦場そのものだ。

"マムがんばれ!ちびなカブ!逃げろ!そうだ。 おい方向が違うではないか。右へ逃げるのだ!あっ、やばい!"

・・・・・(続く)

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