チャーチルの夏、命輝くところ
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チャーチルの夏、そこは命が輝くところ
 こうしてチャーチルでオオカミに出会った
(1)

     8月26日03年

オオカミは、邪悪の代名詞だ!!そして発見!!

鋭い目、なにをも聞き逃さない耳、大きく裂けた口、切り裂くような牙など、これだけでも凶暴で血に飢えたオオカミのイメージはぬぐいされない。

暗闇の中で見た映画の一シーン、米国の西部開拓時代に住んでいる小屋にオオカミが襲う。子供など家族が力を合わせて、次から次へと襲ってくるオオカミの群れと戦う。このシーンを見たときには、オオカミが何時小屋の中へなだれ込むかと恐怖心で震え上がったことしか覚えていない。

あのグリム童話の「赤頭巾の女の子」を読んだときも同じだ。オオカミは、おばあさんを騙し食べてしまったではないか。猟師がオオカミのお腹を切り開きなかから女の子は助けられたが、オオカミがずる賢く、残虐であることが良く分かる。

いまでも、オオカミは、邪悪、危険を意味する悪の代名詞である。とりわけ西欧諸国では、恐れ憎んでいる。

カナダ極北のシンボルがシロクマ(ホッキョクグマ)ならば、オオカミは、悪のシンボルだろう。

"チャーチルにオオカミはいますか?"

"いますよ。時々ですが、見かけることもあります。でも神経質な野生動物なので、姿を見せてもほんの一瞬ですよ。時々写真家がオオカミの写真を撮るには、どうしたら良いですか?と訪ねてきます。オオカミを見かけたというのと写真を撮るというのは、大変な違いですよ。まあ、オオカミの居る所まで来たということを楽しんでください”、とチャーチルのカナダ公園局に勤めている動物学者が話す。

7月になってから、チャーチルからほぼ南80〜90キロ離れたところで森林火災が発生して、南風のときには、チャーチルまで焦げ臭いにおいがしてくるほど大規模なものである。

そのためか、村人たちは、オオカミを見た、ムースを見かけた、あるいは今年はやけにキツネが多いなどと、野生動物が火災現場から北にあるチャーチルへ移動してきたと指摘する。それに村では、毎朝のように、シロクマが現れたというニュースも今年は多い。

          *
7月のある朝、ブライアンの犬の飼育場でコーヒーをいつものように飲みながら、極北の短い夏を楽しんでいた。

ここからは、多少は起伏はあるものの永久凍土層が、西、東、そして南へと数十キロ先までつらなっている。かつて命知らずの船乗りたちが夢を抱いて、北西航路を求めてきたハドソン湾が北側には横たわっている。探検家たちはさらなる北極点を目指してこの湾からもでて行った。ここからはハドソン湾の先は遠すぎて見えない。

風もないので、鼓膜に軽く水蒸気が当たる音がジーンと聞こえてくるだけだ。極北の草花を見ると、色とりどりに僅か揺れているだけだ。

"Hisa!!"と双眼鏡をのぞいていたブライアンがいきなり声をかけてきた。"オオカミだ・・・多分な"と見続ける。双眼鏡なしでは、とても見ることはできない。

野生のオオカミなど見たこともないからなおさらだ。このチャーチルで、オオカミに出会うことは予想もしなかった。

”0時半の方向だ”と車の正面から少し右を指差す。3時と言ったら、車の右方向、9時といったら左側になる。時計の針と同じだ。

”チャーチルでもめったに見ることはできない。世界中にいろいろなオオカミの写真があるけど、90%以上、多分95%以上が動物園か、あるいは金網に囲まれた広大な飼育場での写真ばかりだぞ。もちろん餌は人間から貰っているのだ"と、言う。

”Hisa! 見てみろ”、それにこたえてよく見ると、”ブライアン!キツネじゃあないか。なにか食べているみたい”、”そうか、俺に見せろ”

一つの双眼鏡は、ブライアンとの間で大忙しだ。


"オオカミだ!!色は、グレーだ"と、今度は自信をもった口調で言う。”ピンク色した花の先だ”と彼は双眼鏡を差し出す。ここ永久凍土は、平らなだけに遠くまで見渡せられる。

"う〜ん。キツネか、犬にも見えるけど?"と言うと、ブライアンは"よく見ろよ。大きさがぜんぜん違うだろう。それに足が長く、尾は下がっているじゃないか。う〜ん、相当大きいな。50〜60キロ以上だな"と、飼っているカナディアンエスキモー犬と見比べているのだろう。

"遠過ぎるよ"と思いながらも、期待もしなかったオオカミの出現に、心が弾む。

"Hisa! 日本には、オオカミはいないのか?"とまた双眼鏡で観察しながらつぶやく。
"ニッポンオオカミと蝦夷オオカミがいたのだけど、20世紀のはじめまでに全て殺したかなどで絶滅してしまったよ"と言いながらも、もう一度、オオカミの記憶を焼き付けたいと探す。

"Hisa!!まだいるはずだから、周りも良く見てみろ!!あいつらはいつも群れで行動するから、2〜4頭くらいはいるはずだ・・・・・・いたぞ!2頭めだ。2頭の大きさが違うな〜。多分、オスとメスだ”。

ブライアンの指差す方を探す。”写真を撮るには、遠すぎるな・・・・・・・"う〜ん、遠いな、でも400ミリのレンズで撮影してみるよ。単なる記録写真に終わりそうだな。違う大きさのオオカミだ!写真を撮るから、動かないでくれ"・・・・・

そのうちに、2頭のオオカミは姿を消してしまった。

"ブライアン、もう一度でいいから、オオカミに会いたい。日本の友人に、オオカミを見たぞ言ってみたいな。明日は一人で、来て見るよ。危険はないかな?"と許可をもらう。

ここは広大な土地だが、ブライアンの私有地のため、なにか事故が起こると彼が責められる。

"Hisa!お前なら大丈夫だよ。朝、早いほうがオオカミは出没する可能性はあると思うよ、明日またオオカミがいるといいね"と言って、彼はウインクをする。

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2日目、
朝、6時に現地到着、7月なのに温度は6℃。オオカミがいるということを信じて、・・・・・・(つづく)
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(C)1997-2006,Hisa.